結論

外注する対象が、「名前を考える作業」から「名前を試す作業」へ入れ替わりました。

ネーミングをクラウドソーシングのコンペに出す方法は、長いあいだよく機能していました。

1万円ほどで300件近い案が集まります。自分では出てこない語感がその中に混ざる。そこで決まって、そのまま定着した名前もあります。

いま同じ依頼を出しても、当時ほどの手応えは返ってきません。候補を100個並べる作業を、生成AIが数分・費用ゼロで終わらせてしまうからです。

案を集めるためにお金を払う理由が、もう残っていません。

代わりに前へ出てきた仕事があります。出てきた候補が、初めて見る人に何を伝えるかを確かめることです。

ここはAIには測れません。そして、クラウドソーシングが今も強いのはここです。ランサーズのタスク形式なら、100人分の反応が1,000円ほどで集まります。

名前を変えただけで売れ方が変わった、日本の3つの例

中身を変えず、名前だけを付け替えた記録が残っています。

変えた名前何が起きたか
缶入り煎茶 → お~いお茶約6億円 → 40億円
フレッシュライフ → 通勤快足減り続けた売上が13億円 → 45億円
モイスチャーティシュ → 鼻セレブ売上が10倍

いずれも商品そのものは変えていません

読めない名前は、それだけで落ちる

伊藤園が世界初の緑茶飲料を出したときの名前は「缶入り煎茶」でした。のちに「お~いお茶」へ変えています(伊藤園 沿革)。

理由は単純で、「煎茶」を読めない人が多かったことです。

発売翌年の売上は約6億円。数年は微増でしたが、名前を変えた年に40億円へ跳ね上がりました(J-Net21)。

語呂は飾りではない

レナウンの紳士用抗菌防臭靴下は、発売時の名前が「フレッシュライフ」。初年度3億円から減り続けていました。

「通勤快足」へ変えたあと、年間売上は13億円まで戻り、2年後には45億円になります。

「通勤快速」のもじりなので、口に出した瞬間に意味と音が同時に入ります。誰もが知っている言葉に一音だけ寄せたのが効きました。

名前で動いているのは「伝わり方」

同じ商品名で印象調査もあります。トライベック・ブランド戦略研究所の数字です(ブランド名変更のイメージ調査)。

聞いた項目変更前 → 変更後
何の商品かわかりにくい−51 → −10
商品内容のわかりやすさ9 → 38
インパクトがある7 → 38

通勤快足の改名前後(印象調査のポイント)

缶煎茶→お~いお茶では「親近感」が18から57へ、豆ダッシュ→チョロQでは「わかりにくさ」が−47から−15へ。

動いているのは一貫して、その名前だけを見た人の受け取り方です。

良い名前の条件は3つ。「伝わる」「言える」「空いている」

道具が変わっても、条件そのものは変わりません。先にこの3つを決めておかないと、AIに何千個出させても選べません。

1. 伝わる — 何が手に入るか、見ただけで分かる

セミナーのポータルサイトに「Eternal Graduate School」と付けても、何が手に入るサイトかは分かりません。「学びラボ」のほうが伝わります。

「缶入り煎茶」が読めなかった話と同じ場所です。

そして今は、これを感覚ではなく確かめられます。名前だけを見た人に「何を売っている会社だと思いますか」と書いてもらえば、答えのばらつきで分かります。方法は後半に置きます。

2. 言える — 読める、口に出せる、人に紹介できる

見るのは4つです。

  • 声に出して言えるか
  • 電話で伝えられるか
  • 読み方が割れないか
  • 紹介されたときに、正しく検索されるか

造語で勝負するなら、読めて・意味が引っかかって・そのまま人に言えるを同時に満たせるかを先に見てください。「通勤快足」が効いたのはここでした。

この媒体の名前を「アツメカタ」にしたのも同じ理由です。読みが割れず、検索で別のものと衝突せず、意味(客の集め方)がそのまま事業を指す、の3点で選びました。

3. 空いている — 他社に取られていない

見る場所は3つあります。

  • 商標 — 特許庁の無料データベース J-PlatPat。同じ・似た名前が同じ区分に登録されていないか
  • ドメインとSNS — 取得できるか。取れないなら候補から外す
  • 検索結果 — 検索したときに、別の何かが上位を占めていないか

出願にかかる特許庁費用は、出願料が「3,400円+8,600円×区分数」、登録料が10年分で「32,900円×区分数」(5年分なら「17,200円×区分数」)です。

審査にも時間がかかります。2024年の平均ファーストアクション期間は約6.9か月でした(商標登録の手続き・流れ・費用)。

名前を出す作業に、もうお金を払う理由がない

コンペに1万〜1万5千円を出すと300件近い応募が集まりました。自分では出てこない語感が混ざるので、当時はこれで合っていました。

今は同じことが数分で終わります。ただ、効いているのは金額ではありません。

条件を変えて何度でもやり直せることのほうが大きい。

コンペは締め切って集める形です。集まった案を見て「方向性が違った」と気づいた時点で、その1万円は終わります。AIなら「もっと短く」「業種が伝わる方向で」と条件を変えて、その場で出し直せます。

同じ入れ替わりは集客の企画でも起きていて、そちらは集客アイデアの出し方に書いています。

AIに出させるときの指示の型

  1. 誰の、どんな困りごとを解決するかを1文で渡す
  2. 想起してほしい言葉と、避けたい言葉を並べる(例: 手軽さは伝えたい、安さは伝えたくない)
  3. 音の条件をつける(4〜6音、読みが割れない、濁音を避ける、など)
  4. 出力に読み・意味・その名前から連想される業種を併記させる
  5. 30個単位で出させ、方向を伝えて次の30個を出させる

要点は4つ目です。

連想される業種をAI自身に書かせると、その出力がそのまま条件1のテストになります。狙った業種と違うものが書かれたなら、その名前は伝わっていません。

そのままコピーして使える:AIに案を出させる指示
あなたはネーミングの専門家です。次の条件で、商品名の候補を30個出してください。

- 誰の、どんな困りごとを解決するか: (例: 個人経営の飲食店が、口コミを集める手間を減らせる)
- 想起してほしい言葉: (例: 手軽さ、続けやすさ)
- 避けたい言葉: (例: 安さ、値引き)
- 音の条件: 4〜6音、読み方が割れない、濁音は控えめ
- 表記: (例: カタカナ中心 / ひらがな可 / 英字は不可)

出力は「候補 / 読み(ひらがな) / 意味・由来 / この名前だけを見た人が想像する業種」の4列の表にしてください。
4列目は、私が狙っている業種を書かずに、名前だけから素直に連想されるものを書いてください。

30個出したら止めてください。方向を伝えるので、そのあと次の30個を出してください。

画像でも同じ線引きになります。AI画像を集客のどこまでに使ってよいかはAI画像を集客に使う線引き

AIに測れないもの: 初見の人が何を思い浮かべるか

AIに「この名前はどう思われますか」と聞けば答えは返ってきます。

ただしそれは学習データの平均です。あなたの候補を初めて見た人の反応ではありません。

公開してから比べればよい、とも言い切れません。中小規模ではA/Bテストが統計的に成立しないことはボタンの色の記事のとおりで、名前も同じです。

母数が足りないまま「なんとなく反応が悪い」で終わります。公開する前に、少人数へ直接聞くほうが早いです。

今のクラウドソーシングの使い方: 1問10円で反応を集める

案を出すのはAI、伝わるかを測るのは人。1. AIがやること: 案を出す。数分で何十案でも出せる。量と発想の役割をAIが担当する。2. 人にやること: 初見の人に聞く。商品を知らない外の人に「この名前の会社は何を売っていると思いますか」を自由記述で聞く。伝わるかの判定は人にしかできない。聞き方を間違えないことが要点で、NGは好みを聞くこと(「どれが好きですか」。好きと伝わるは別物で、選ばれる名前とは限らない)、OKは伝わり方を聞くこと。答えが2〜3種類に収束すれば伝わっており、10種類に散るなら名前だけでは伝わっていない。
AIは案を、人は「何が伝わるか」を担当します

ランサーズにはタスク形式があり、短い作業を多人数に配れます。アンケートはこの形式の代表的な用途です。

公式ガイドは単価の目安を「1分15円が1つの目安となります」としています。30秒で終わる設問なら10円前後で、集まりが悪ければ上げます。

費用は、依頼者側にシステム手数料が契約金額(税込)の5.5%かかります(システム手数料)。1件10円×100人なら1,000円と手数料55円です。

  1. 候補を5〜8個に絞る(多すぎると比べられない)
  2. タスク形式で依頼を作り、ひとりあたりの制限を1件にする
  3. 単価を10〜30円、募集件数を100件に設定する
  4. 集まった回答を名前ごとに集計する
  5. 上位2つに絞り、設問を変えてもう一度回す

何を聞くかで、得られるものが変わる

好みを聞いてはいけません。「どれが好きですか」で選ばれる名前と、実際に選ばれる商品名は別物です。

聞き方分かること使う場面
どれが好きですか回答者の好み使わない
何を売っていると思いますか何が伝わるか最初に必ず
読み方をひらがなで読みが割れるか造語のとき
どちらの説明を読みたいですか関心の差2つに絞ったあと
友人には何と説明しますか紹介されるときの言葉口コミで広げたいとき

同じ候補を見せても、聞き方によって分かることが変わります

1回目に配る設問は、下をそのまま使えます。名前の欄だけ自分の候補に差し替えてください。

そのままコピーして使える:1回目に配る設問文
【作業内容】下の5つの名前を上から順に見て、2つの質問に答えてください。1分ほどで終わります。

- 候補1
- 候補2
- 候補3
- 候補4
- 候補5

【質問1】それぞれの名前について「この名前の会社は、何を売っていると思いますか」を、15文字くらいで書いてください。思いつかない場合は「わからない」と書いてください。(例: 1 カフェ / 2 わからない / 3 掃除の会社)

【質問2】それぞれの名前の読み方を、ひらがなで書いてください。(例: 1 あつめかた)

【お願い】正解はありません。検索せず、見た瞬間に思ったことをそのまま書いてください。どれが好きか・かっこいいかは聞いていません。何を売っていそうかだけ書いてください。

2つに絞ったあとの2回目は、質問2を「値段が同じなら、どちらの説明を先に読みたいですか。理由も一言で」に差し替えます。

読み方は単純です。

自由記述の答えが2〜3種類に収束していれば、その名前は伝わっています。 10種類に散るなら、名前だけでは何も伝わっていません。

案の出し方は、名前以外でも同じ

案をAIで出して、人に選ばせる。この形は名前だけの話ではありません。集客の企画でも同じで、案の数が無料になったぶん、決め方のほうが仕事になります。同じ考え方の進め方は集客アイデアの出し方

画数をどう扱うか

依頼するときに画数を条件へ入れる人もいます。候補を絞る制約として使うのは自由です。

ただし、画数と事業の成績の関係を示す資料は見当たりません。占いの結果を理由に、伝わる名前を落とすのは損です。

使うなら順番を変えてください。伝わる・言える・空いている、を先に満たした候補が複数残ったときの最後のタイブレークにする。この使い方なら失うものがありません。

名前を決める前に
  • 初見の人が「何屋か」を同じように答えた
  • 読み方が割れない(造語なら読みを聞いて確認した)
  • 声に出して言える。電話で伝えられる
  • J-PlatPatで、同じ・似た商標が同じ区分にないか調べた
  • ドメインとSNSアカウントが取れる
  • 検索したときに、既存の別のものが上位を占めていない
  • 出願は跳ねてからでよい、と決めた(先に区分を広げない)

今日やること

候補があるなら、AIに30個出させて5個に絞るところまでを今日やってください。ここまでは無料で、1時間かかりません。

そのうえで、5個をランサーズのタスクに載せ、「何を売っている会社だと思いますか」の1問だけを聞きます。1,000円ほどで、翌日には答えが集まります。

名前を出す作業が無料になったぶんの予算を、確かめる工程に回す。それが今の形です。