結論

自由診療の広告が値段の話になるのは、営業努力が足りないからではありません。 差をつくる材料が、ほとんど使えないからです。

たとえば、他の業種なら普通に使うこれが、全部使えません。

  • 患者さんの声(書いてある中身に関係なく、体験談という形そのものが不可)
  • 「他院より優れている」(事実であっても不可)
  • 割引・キャンペーンの見せ方(厳に慎むべき、とされている)

残るのは価格と効果だけです。だから、どの院の広告も同じ顔になり、最後は安いほうが選ばれます。

抜け道は、規制の外に出ることではありません。語る場所を移します。 広告の枠では言えないことも、条件を満たした自院サイトなら言えるからです。広告は連れて行く役に徹して、中身はリンク先で話す。 これが組み替えの全部です。

何が使えないのか

「自由診療の広告で差をつくる手段はほぼ塞がれている!」という見出しの図。医療広告ガイドラインで使えないものとして、患者の体験談(使えない)、「他院より優れている」(使えない)、キャンペーン・割引の見せ方(厳に慎むべき)、ビフォーアフター(条件を満たせば可)の4つが並ぶ。矢印の先に「残るのはこの2つだけ」として価格と効果。下に「だから、価格勝負になる!」
使える材料が減った結果として、価格の話に落ちます

患者の体験談

指針は、体験談を明確に認めていません(第3-1 1(6))。理由も書かれています。

個々の患者の状態等により当然にその感想は異なるものであり、誤認を与えるおそれがある

見落としやすいのが、その次の一文です。

これは、患者等の体験談の記述内容が、広告が可能な範囲であっても、広告は認められない。

つまり、書いてある中身が問題なのではなく、体験談という形式そのものが対象です。後で説明する限定解除でも救えません。

ただし、指針は範囲も限っています。医療機関が費用負担などの便宜を図って掲載を依頼していない、第三者が運営する口コミサイトや個人のSNSへの投稿は、そもそも広告に当たらないとされています。

「他院より優れている」

比較優良広告の項(第3-1 1(2))は、こう書いています。

事実であったとしても、優秀性について、著しい誤認を与えるおそれがあるために禁止される

「日本一」「No.1」「最高」といった最上級の表現が、客観的な事実であっても禁止される表現に該当すると明記されています。

同じ項で、著名人との関連性を強調することも比較優良広告として扱うとされています。挙がっている例は「芸能プロダクションと提携しています」「著名人も○○医師を推薦しています」などです。

一方で、逃げ道も書かれています。最上級表現を除けば客観的事実の記載自体は妨げられないが、求められれば裏付けとなる合理的な根拠を示し、客観的に実証できる必要がある、とされています。調査結果を引用するなら、出典・実施主体・範囲・実施時期の併記が要ります。

割引・キャンペーンの見せ方

費用を強調した広告は、「品位を損ねる内容の広告」の下に置かれています(第3-1 1(8)ア①)。挙がっている例です。

例として挙がっているもの
今なら○円でキャンペーン実施中!
ただいまキャンペーンを実施中
期間限定で○○療法を50%オフで提供しています
○○ 100,000円 → 50,000円
○○治療し放題プラン

指針に例として挙げられている表現

ビフォーアフター(条件つきで使える)

唯一、条件つきで残っている差別化の材料です(第3-1 1(7))。原則は「誤認させるおそれがある写真等」は認められない、ですが、続けてこう書かれています。

術前又は術後の写真に通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な説明を付した場合についてはこれに当たらない

つまり、次の3つを付ければ載せられるということです。

ビフォーアフターに付ける必要があるもの
  • 通常必要とされる治療内容
  • 費用等に関する事項
  • 主なリスク・副作用等に関する事項

さらに、掲載のしかたにも指定があります

リンクを張った先のページへ掲載したり、利点や長所に関する情報と比べて極端に小さな文字で掲載したりといった形式を採用してはならない

注釈を小さくして下に置く、別ページに逃がす、はどちらも名指しで禁止されています。そして前提として、限定解除の要件を満たしていない場合は術前術後の写真は広告できないとも書かれています。

どこでなら語れるのか

ここが実務上、いちばん大事なところです。

指針は、一定の要件を満たす場合に、広告できる事項の限定を解除しています(第3-3 2)。要件は4つで、③と④は自由診療について情報を提供する場合に限るとされています。

要件自由診療で必要か
患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイト等であること常に必要
内容について容易に照会できるよう、問い合わせ先を明示すること常に必要
通常必要とされる治療等の内容、費用等の情報を提供すること自由診療のとき必要
主なリスク、副作用等の情報を提供すること自由診療のとき必要

限定解除の4要件

広告の枠では語れない

①には重要な注記があります。バナー広告や、費用を支払って上位に表示される検索連動の広告は、①を満たしません。

これが何を意味するか。

  1. 広告そのもの(バナー・検索連動)は、限定解除の対象にならない
  2. だから広告の枠内では、広告可能事項しか書けない
  3. 語る場所は、そのリンク先の自院サイトになる
  4. ただし自院サイトも、①〜④を満たしていなければ同じこと

広告で全部を言おうとするから、価格と効果しか残らないわけです。広告は連れて行くところまでを担い、中身はリンク先で語るという分担になります。

広告とリンク先の関係そのものは、実測した広告のリンク先ページは何でできているか

③④の書き方にも指定がある

③については、名称と最低限の費用だけを出すのでは足りないとされています。

通常必要とされる治療内容、標準的な費用、治療期間及び回数を掲載し

標準的な費用が不明確な場合は、最低金額から最高金額まで(発生頻度の高い追加費用を含む)の範囲を示すこととされています。

④についても、利点だけを強調して誘引すべきではなく、主なリスクや副作用を分かりやすく掲載すること、とされています。③④とも、リンク先への逃がしと極端に小さな文字は不可です。

未承認の医薬品等を自由診療で用いる場合は、さらに5項目(未承認である旨・入手経路・国内承認の有無・諸外国の情報・副作用被害救済制度の対象外である旨)の明示が求められます。

残っている材料は、医師本人

自院のLPが、効果を思わせる画像と料金表だけになっていませんか。それは、他が使えないと分かった結果として、そうなります。

では何が残っているか。医師本人です。 経歴も、話し方も、何を大事にしているかも、他院がコピーできません。

やることは、価格と効果でできていたページを、歩み・医療への向き合い方・人柄が伝わる流れへ組み替え、医師自身が話す動画を広告の素材にすることです。写真と短いコピーでは出ない温度感が、そこにだけ残ります。

実際の初診を録ってみた

言葉で書くより、聞いてもらったほうが早いところがあります。オンラインの医療ダイエットを、当社の石谷が客として受けたときの録音です。

医療ダイエットの初診(1分21秒・担当医の名前は伏せています)

聞きたいところから:

事務的なやり取りと、話していない間は外してあります

まず言っておくと、説明の中身は十分でした。血糖値が下がってふらつくこと、腸の動きがゆるやかになること、膵臓に負担がかかること、初回は一番少ない容量から始めること。必要なことは全部出てきます。

問題は、それが「聞いたから出てきた」情報だったことです。こちらが切り出さなければ、副作用の話には入りませんでした。

そうですね、なんか危険性みたいなところはないんですか? 初めてなんでちょっとわかんないんですけど
受けた側(石谷)

初めての人が、これを毎回言えるとは限りません。言えなかった人は、分からないまま決めるか、決めずに離れます。

値段についても同じでした。いくらかを聞くと、こう返ってきます。

値段は私の方だとわかんないので、そこはご自身でホームページを見ていただく形になりますね
担当医

診察と料金の窓口が分かれているのは、規模が大きいほど普通のことです。対応として間違ってはいません。 ただ、受け取る側に残るのは「ここでは聞けない」という感触のほうです。

つまり、現場では答えられている。ただし聞かれたときだけ、という状態です。ここが、人を出す訴求の入り口になります。初めての人が黙って抱えているのは、たいてい次の3つで、どれも料金表には書いていません

  • 危なくないか
  • 自分でも受けられるのか
  • 決めたあと、どう進むのか

限定解除の要件を満たしたページなら、この3つに先回りして答えられます。聞かれてから答えるのでは、聞ける人にしか届きません。 そして先回りして答えるほど、価格の比較から外れていきます。

医師の情報は、どこまで出せるか

正直に書きます。医師の「著書」「人柄」は、指針の広告可能事項に列挙されていません。 禁止の例としても挙がっていません。

広告可能事項として明記されているのは、氏名・年齢・性別・院内の役職・略歴(生年月日/出身校/学位/免許取得日/勤務した医療機関と期間)と、厚生労働大臣に届け出た団体による専門性認定を受けた旨です(第3-2 4(9))。研修歴は、線引きが困難であることを理由に広告可能事項とされていないと明記されています。

動画をどう作るか

効いてくるのは、医師本人が話すという一点です。

これには実務上の利点があります。

効果を見せる画像医師本人が話す動画
指針との関係効果の表現に規制がかかる話す内容次第
他院が真似できるかできるできない
見た人が判断すること効くかどうかこの人に任せるか
価格比較に入るか入る入りにくい

誰が話すかで変わるもの

いちばん下の行が狙いです。 効果で判断させると、他院の効果表現と並べて比べられます。人で判断させると、比べる対象がなくなります。

無形サービス全般で同じ構造があります。詳しくは無形商材が価格で比べられる理由

撮るときに決めておくこと

医師に話してもらう前に
  • 話す内容が、広告可能事項の範囲か、限定解除を満たしたページに置くのか
  • 効果を断定する言い方(治ります・必ず・確実に)を使わない
  • 他院との比較を口にしない
  • 「日本一」「No.1」など最上級の表現を使わない
  • 費用に触れるなら、通常必要な治療内容・期間・回数もセットで出す
  • 患者の声を代弁する形になっていない(体験談の紹介と読まれない)

台本を作り込みすぎないほうが、狙いには合います。 話し方や温度感を出すことが目的なので、整いすぎると写真と短いコピーに戻ります。

一度で決まらない前提で回す

最初に出した1本が当たらないことは、普通に起きます。そこで方針ごと戻すと、価格の話に逆戻りします。

これは自由診療に限りません。人を出す訴求は、当たる角度が事前に読めません。最初の1本で決まらないことを前提に、回数を確保しておくほうが現実的です。

  1. 限定解除の①〜④を満たす形に、自院サイトを整える
  2. 医師本人の話を、角度を変えて数本撮る
  3. 広告は連れて行く役に徹する
  4. 2〜4週間動かす
  5. 問い合わせの中身を読む(価格を聞いてきたか、症状を書いてきたか)
  6. 角度を入れ替える

5番が肝心です。 件数だけ見ていると、増えた・減ったしか分かりません。問い合わせの質が変わったかどうかは、フォームの記入内容に出ます。

外に出す数字と、中で見る数字

自由診療の事例では、広告の成果数値が公開されないことがよくあります。隠しているのではありません。 効果や有効性を強調する表現は誇大広告の例に挙がっているので、成果を数字で外に出そうとすると、指針の側で引っかかる可能性があります

外に出す数字と、中で見る数字は分けてください。 中で見るぶんには、期間と比較対象を決めて測れば済みます。数字の読み方は店舗集客の事例7件を並べて分かったこと

出す前の確認

自由診療の広告を出す前に
  • 広告の枠内に、広告可能事項以外を書いていない
  • リンク先のページが、限定解除の①〜④を満たしている
  • 費用は、通常必要な治療内容・標準的な費用・期間・回数まで書いてある
  • 主なリスク・副作用が、利点と同じ見やすさで書いてある
  • リスクや費用を、リンク先や極小の文字に逃がしていない
  • 体験談を、形を変えて載せていない
  • 最上級の表現と、他院との比較を使っていない
  • 著名人との関係を前面に出していない
  • ビフォーアフターを使うなら、治療内容・費用・リスクの3点を付けた
  • 未承認の医薬品等を使うなら、5項目を明示した
  • 出す前に、自治体の医療広告担当か専門家に確認した

今日やること

自院サイトを開いて、限定解除の①〜④が揃っているかを確かめる。 ここが欠けていると、あとから作る材料が全部使えません。

揃っていないなら、足りない項目を書き足すのが先です。医師の動画も、人柄の見えるページも、その次で構いません。

  • まだ効果と価格しか出していない → 限定解除の要件を確認するところから
  • 要件は満たしているが、書くことがない → 医師の話を引き出す工程が要る
  • 人を出しているが伸びない → 角度を変えて本数を増やす